今回は男性特有の脱毛症であるAGA(男性型脱毛症)について解説していきます。
今回の記事が、AGAの原因や使用できるお薬などを理解し、ご自身の状況にとって最適な対応をするための参考にしていただけると幸いです。
※お薬の使用時には製品パッケージに記載の注意事項をよく読み自分が使用しても大丈夫なのか確認の上、用法用量を守って正しく使いましょう。
AGA(男性型脱毛症)とは
AGA(男性型脱毛症)とは、名前の通り男性に起こる、思春期以降に始まり徐々に進行する脱毛症です。
前頭部(おでこの生え際)や頭頂部の毛が薄くなっていくという特徴があります。
わかりやすく言うと、いわゆる「M字ハゲ」、おでこの生え際の後退、頭頂部の薄毛です
進行性の脱毛症であるため、放置すると徐々に抜け毛、薄毛が進行する恐れがあります。
AGAの人は現在日本全国で1200万人を超えると言われています。
AGAで薄毛になる理由
AGAの主たる原因はテストステロンという男性ホルモンから生成されるジヒドロテストステロン(DHT)という物質です。
テストステロンは5α-還元酵素という体内物質の働きによりDHTとなります。
生成されたDHTが男性ホルモンレセプターと結合することで脱毛因子を誘導し、結果として抜け毛が起こります。
AGAの症状は前頭部(おでこの生え際)や頭頂部に出ますが、これはAGA発生に関与する5α-還元酵素の体内分布に従います。
5α-還元酵素にはⅠ型とⅡ型が存在し、それぞれⅠ型はほぼ全身の皮脂腺に、Ⅱ型は頭皮(前頭部、頭頂部)、脇、陰部などに存在しています。
このようにⅡ型の存在部位である頭皮(前頭部、頭頂部)はAGAの症状の部位と一致しています。
それではAGAにより薄毛が進行する理由をもう少し詳しくみていきましょう。
結論から言うとAGAにおける薄毛はヘアサイクルの短縮化によります。
ヘアサイクルとは
髪の毛には「ヘアサイクル」と呼ばれるライフサイクルがあります。
髪が生え、成長し、抜け落ち、そして再び生えてくる一連のサイクルのことです。
髪には寿命があり、寿命を迎えた髪は抜け落ち、そして新しい毛が生えてくるのです。
一生で15~30回ほどのヘアサイクルを繰り返すといわれており、1サイクルがおよそ3~6年程度です。
ヘアサイクルの回数に上限があるということが、一般に加齢により髪の量が減る傾向にある理由の1つです。
ヘアサイクルは「成長期」「退行期」「休止期」の3つのステージに分かれています。
成長期
成長期の期間は人により異なりますがおよそ3~6年です。
この期間に毛は誕生し、長く、そして太くなります。
成長期の期間が長いほど髪の毛は太くなります。
長さについては定期的な散髪があるため実感しづらいですが、1年でおよそ15cm程度伸びます。まさに毛が成長する期間です。
成長期の最初期、毛根部という場所で、新しい髪の毛が誕生します。
そして、休止期の最終盤を迎えた古い髪の毛が、新しい毛に押し出され抜けていきます。
成長期は毛母細胞の活動(細胞分裂)が活発な時期であり、新しい髪の毛はそれによりどんどん成長します。
なお毛髪全体の85~90%が成長期の髪です。
退行期
退行期の期間はおよそ2週間です。成長期の次の段階です。
成長期で成長した毛が、休止期に移行する過程の時期です。
退行期には毛乳頭細胞が毛母細胞から離れます。
毛母細胞の活動には、毛乳頭細胞からのシグナルや栄養が必要です。
毛乳頭細胞が毛母細胞から離れることでこれらが弱まり、したがって髪が成長しづらくなります。
毛母細胞の活動は衰え、毛球が退縮する時期です。
毛髪全体の1%がこの退行期の髪です。
休止期
休止期はヘアサイクルの最後の期間です。期間は3~4ヶ月です。
この時期には髪の成長が完全に止まります。
そして毛根部では、新たな毛が生える準備を始めている時期でもあります。
最終的には新しい毛に押し出されるかたちで自然と毛が抜け落ちます。
毛髪全体の10%~20%が休止期の髪です。
AGAにおけるヘアサイクルの乱れ
AGAでは前述のヘアサイクルが乱れ、結果として抜け毛が増加します。
AGAの原因となるジヒドロテストステロン(DHT)は、毛乳頭細胞の男性ホルモン受容体に取り込まれると脱毛シグナルを発信します。
これによりヘアサイクルの中の成長期を大幅に短縮させます。
成長期は前述の通り髪が太く丈夫に育つ時期です。通常ヘアサイクルにおける成長期はおよそ3~6年ほどですが、AGAでは数ヶ月~1年程度に短縮されてしまいます。太く育たないまま、そして通常よりも早期に退行期、休止期へと移行するため、結果として髪は細く、抜け毛も目立つようになります。
ヘアサイクルを乱す要因はAGA以外にもストレス、生活習慣(食生活、睡眠不足、喫煙など)、加齢などがあります。
ヘアサイクルを乱す要因、乱れの改善方法等については下記記事で詳しく解説しています。
→薄毛・抜け毛の原因、対策、治療薬まで解説。発毛剤と育毛剤の違いも
AGAの対策
AGAの対策は、まず第一に早い段階で始めることが重要です。
ヘアサイクルの回数が一生のうちで15回~30回程度で、AGAではヘアサイクルの1サイクルが短期間で終わってしまい、放置している間にどんどん有限であるヘアサイクルを消耗してしまいます。
これが早めに対策をはじめることが重要である理由です。
AGAの対策として医師からもらうAGA治療薬(内服薬)や市販の発毛剤を使用することが多いです。
AGA治療薬(内服薬)
医師から出してもらうAGA治療を目的とした内服薬にはデュタステリド、フィナステリドがあります。
私自身も皮膚科の門前薬局に勤務している際に何度もお渡ししたことのあるお薬です。
どちらも5α-還元酵素阻害薬ですが、フィナステリドは特に5α-還元酵素Ⅱ型を阻害するため5α-還元酵素Ⅱ型阻害薬と呼ばれます。
5α-還元酵素とは体内で代謝に関与する物質で、AGAの原因であるDHT(ジヒドロテストステロン)の生成に必要な酵素です。この酵素の働きを阻止することで効果を発揮します。
AGAの病態から考えるとこれら内服薬は発毛剤というよりは、脱毛防止薬と言えそうです。(もちろんAGA治療薬という名前が正しいです)
服用に際しては医師及び薬剤師から効果、副作用等のお話をよく聞いた上で服用開始しましょう。
市販の発毛剤
市販の発毛剤は、頭皮に直接使用する外用薬です。発毛成分としてミノキシジルという成分が配合されています。
市販薬では最高濃度5%です。
ミノキシジルは、元々高血圧治療薬(血圧を下げる薬)として開発されていましたが、多毛症の副作用が臨床試験で報告されたことから薄毛の治療に用いられるようになったという、少し変わった経歴のあるお薬です。
ミノキシジルの作用としては毛母細胞刺激、細胞分裂活発化、血管拡張作用による血行促進、ヘアサイクルの乱れの改善などが挙げられます。
これらの作用の結果として発毛効果、育毛効果、脱け毛抑制効果が期待できます。
外用薬であるため副作用はあまり大きなものはなく。最も多い副作用は塗布部位の赤みやかゆみといった皮膚炎です。
発毛剤の効果測定のためには最低でも4ヶ月程度は用法用量を守って継続使用する必要があります。
効果の程度には個人差があり、全ての人に効果があるわけではありません。(どんなお薬もこれは同じです)
また、市販の発毛剤だけで薄毛治療をしている場合において、6ヵ月以上の長期にわたり使用しても効果の実感に乏しい場合には医師に相談することを推奨します。AGA治療薬での治療、あるいは内服薬と発毛剤の併用が必要な可能性があります。
AGA治療に使われる主なお薬2種類を紹介しましたが、両者はそれぞれAGA治療内服薬=脱毛を防止する薬、ミノキシジル配合の外用発毛剤=発毛促進剤です。
作用機序が異なるため併用が可能であり、併用した場合には内服薬で脱毛を抑制し、外用発毛剤で発毛を促進するという効率的な治療が可能となります。
併用に際しては内服薬を医師から処方してもらうことになるため、併用の可否を必ず医師に確認しましょう。
おすすめの発毛剤は下記記事で紹介しました。
初期脱毛って何?
初期脱毛とは、AGA治療薬やミノキシジル配合の外用発毛剤の使用開始後、一時的に抜け毛が増え薄毛が悪化することです。初期脱毛の期間は一般に薬の使用開始後1~2か月程度とされています。
これはヘアサイクルの乱れを改善するために必要なことであり、薬が効いている証拠でもあるため心配は要りません。
薬使用開始時に既にある育たなくなった髪を、新しく生まれ変わらせるために必要な脱毛です。毛根の数以上に髪の本数は増えないので、強い髪を作るために弱い髪が生えている毛根を一旦空けるというイメージです。
ただし初期脱毛と思われる症状が長期間続く場合には薬の使用で逆に頭皮環境が悪化していることが原因である可能性も否定できないため注意が必要です。
まとめ
最後まで読んでいただきありがとうございました。
いかがでしたでしょうか。
今回は男性型脱毛症、AGAについて解説しました。
AGAの原因は男性ホルモンを発端としたヘアサイクルの乱れです。
今回の記事をAGAへの理解を深めるきっかけにしていただけると幸いです。
※お薬の使用時には製品パッケージに記載の注意事項をよく読み自分が使用しても大丈夫なのか確認の上、用法用量を守って正しく使いましょう。