今や国民病とも言われる糖尿病。患者数は年々増え続けており、糖尿病の可能性を否定できない人は1,000万人を超えるとも言われています。
そんな多くの人が悩む糖尿病ですが、
「一旦糖尿病と診断されたら一生治らないのか?」
「治るのか?」
「薬は飲み続けなければならないのか?」
というあたりは皆さん気になるところだと思います。
そんなわけで今回は糖尿病は治るのかということについて解説をしていきます。
糖尿病は治る時代?そもそも糖尿病の「治る」とは。
「糖尿病は治るのか」非常に率直な問いであり、医療人でもはっきりとこうだ!と回答しづらい問いです。
糖尿病の症状は高血糖です。
多飲、多尿、口が乾くといった症状を感じることもありますが、高血糖状態でありながら自覚症状がない場合もあります。
ではこの場合「治る」とはどういうことをさすのでしょうか。
自覚症状がなくなれば「治った」状態なのでしょうか?とすると自覚症状がなくて高血糖の人は「治っている」状態なのでしょうか?
今回はこのあたりを深掘りして解説していきます。
糖尿病とは
糖尿病とはインスリンの作用不足による慢性の高血糖状態を主な特徴とする病気(代謝疾患群)です。
糖尿病には1型糖尿病と2型糖尿病があります。
1型糖尿病は遺伝素因等何らかの原因でインスリンを合成・分泌する膵臓(すいぞう)の細胞が破壊され、絶対的なインスリン欠乏に至る病気です。
一方2型糖尿病は、インスリン分泌低下やインスリン抵抗性を生じさせる遺伝因子に、過食(とくに高脂肪食)、運動不足、肥満、ストレスなどの環境因子および加齢が加わり発症します。生活習慣病と認識され、国民病とも言われている糖尿病はこの「2型糖尿病」のことであり糖尿病全体の90%以上は「2型糖尿病」です。
症状は
1.膵臓(すいぞう)からのインスリン分泌の遅延・低下
2.インスリンの効きが悪くなる(インスリン抵抗性の増大)
であり、これにより血糖値の高い状態が続くことで血管を傷つけます。
もし早期に発見し、食事療法、運動療法、薬物療法などで血糖値をコントロールすることができれば、血管の消耗が抑えられます。早ければ早いほど血管の消耗を防げます。
高血糖状態が続き長期に渡り血管に負担がかかると、結果として糖尿病三大合併症の網膜症、糖尿病性腎症、糖尿病性神経障害という重篤な合併症を引き起こします。
また、これ以外にも心臓の病気、歯周病、認知症のリスクも上がると考えられています。
糖尿病治療の目標は、合併症の発症や進行を阻止することです。
そのために血糖、血圧、コレステロール値、体重などをコントロールする必要があります。
糖尿病の合併症については下記の記事でまとめました。こちらも是非参考にしてみてください。
糖尿病合併症
→糖尿病の合併症を解説。三大合併症は目、腎臓、神経の病気。
治療の軸は食事療法、運動療法(+薬物療法)
糖尿病治療は食事療法、運動療法、薬物療法の三本立てです。
この3つの位置付けとしては、食事療法と運動療法を行なっても高血糖状態が改善されなかった場合に薬物療法を開始するといった感じで、実は食事療法と運動療法が真っ先に行われる治療であります。
血糖値が異常に高い場合には薬物療法をすぐに開始する場合もあります。
しかし基本的な考え方としては、まずは食事療法、運動療法から開始、それでも改善しない場合薬物療法を開始です。
生活習慣病と呼ばれるに相応しい治療の仕方ですね。
食事と運動は広い意味では「生活習慣」です。生活習慣を改善してみて、高血糖状態が改善しなかった場合に薬物療法を開始すると考えると納得ですね。
食事療法、運動療法、薬物療法についてはそれぞれ下記の記事でまとめました。
食事療法
→糖尿病の食事療法は7項目を意識しよう。ガイドラインを軸に解説
運動療法
→糖尿病予防には運動が効果的。運動療法の効果・やり方を詳しく解説
薬物療法
→糖尿病の治療薬、8種類+インスリン。薬剤師が全て解説
治療の考え方については以上です。
次は治療の目標についてです。
糖尿病治療の目標は「血糖、血圧、脂質代謝の良好なコントロール状態と適正体重の維持、および禁煙の遵守を行うことにより、糖尿病の合併症の発症、進展を阻止し、ひいては健康な人と変わらない日常生活の質(QOL : quality of life)の維持、寿命の確保をすること」です。
噛み砕いて言うと、食事療法や運動療法といった生活習慣の改善、場合によっては薬物治療も行ない諸々の数値をコントロールすることで、合併症の発症、進展を防ぎ、糖尿病でない人と質・長さとも同じような一生を確保することです。
不思議な感じがしますね。
通常「疾患」の「治療目標」は「疾患を完治すること」ですよね。
例えば骨折の治療のゴールは骨をくっつけること、および周辺筋肉の筋力を元に戻し身体能力を骨折前の状態に戻すことでしょう。
ノロウイルスなどの胃腸炎の治療のゴールは発症前のように食事、吸収、排泄を消化管が行なえるようになることですね。
糖尿病ではこのような「完治」という考え方は難しいように思えます。
努力によって高血糖状態が改善されても、その後生活習慣が乱れるとまた血糖値が高くなるかもしれません。
そして糖尿病と正常の境は一応数値で決められていますが、今健康な人、血糖が正常な人も生活習慣が乱れた状態が続き高血糖状態となれば糖尿病になる可能性があります。
誰でも発症する可能性がある病気なのです。
結局治るのか
で、結局治るのかというところについてです。
「治る時代」と言っても過言ではないほど良い薬が出てきているのは事実です。
食事療法、運動療法も以前と比較すれば明確な指針があるように思います。
ただ、私なりにいうと「完治」というのは存在しないように思います。
治療に積極的に取り組み、血糖が正常値で安定したとしてもその後極端に生活習慣が乱れると再び高血糖状態となる恐れがあるからです。
むしろ血糖値が正常になってからが重要とすら思えます。
ダイエット後の体重の維持に似ているかもしれません。
ダイエットを頑張って適正体重になった途端におやつを増やし外食を増やすと体重はリバウンドするでしょう。
血糖値についても同様で、血糖値が正常になったと同時におやつを増やし、食べる量を増やし、外食も増やしたとすれば、やがて高血糖状態となるでしょう。
仮に血糖が正常値に戻ったことを「完治」と呼んだとして、リバウンドしたらそれは「一旦治ってた時期もあった」と言えるでしょうか。
短期集中よりは緩く継続して
治療の基本である食事療法と運動療法は現在糖尿病と診断されている人はもちろんですが、境界にいる人、血糖が正常値の人にとっても必要な療法(考え方)であるように思います。
これに関してはきっちり厳しく行なうことよりは、自分なりに続けられる程度で長く続ける(血糖が正常値になってからも続ける)ことが重要というのが私の考えです。
理由は以下です。
例えば半年間無理をして厳格な食事療法と運動療法で血糖値を正常値に戻したとしても、その後も食事、運動療法を継続できなければまた血糖値は高い状態に戻ってしまうでしょう。
無理をして厳格な食事療法と運動療法により血糖値が正常値となったとして、その生活をその後生涯にわたって続けることができるでしょうか。
多くの人にとっては難しいと思います。
私自身も無理だと思います。
重要なのは今血糖値を正常に戻すことではなく、生涯にわたり正常値付近で安定させることです。
食事療法と運動療法をきっちり厳しく行なうよりも、自分なりに続けられる程度で長く続ける
ことが重要と考えるのはこのためです。
まとめ
最後まで読んでくださりありがとうございます。
いかがでしたでしょうか。
糖尿病は長く付き合っていく病気、早期発見し血糖コントロールを続ければ合併症の発症を阻止し得るということがわかっていただけたかと思います。
早期発見、長期の血糖コントロール、この2つがポイントです。
気になる症状がある場合はすぐに受診(糖尿病と診断されれば早期に治療開始できる、診断されなければ一旦安心できるといいことばかりです)、そして実際に治療を開始した場合には処方された薬をきちんと使用することはもちろん、食事療法および運動療法にも積極的に取り組むことが合併症の発症・進展阻止につながります。
糖尿病の症状については下記の記事でまとめました。こちらも参考にしてみてください。
糖尿病の症状
→糖尿病かも?そんな時は7つの症状をチェック