漢方の歴史は長く、日本には奈良時代に伝来しました。
古代中国医学を基本とするもので、その後日本で独自に発展・実践されてきました。
今回はそんな歴史ある漢方の「診断」にフォーカスし、解説していきます。
※「漢方薬」と「漢方」
「漢方薬」は、漢方医学の理論に基づいて処方される薬のことです。生薬(しょうやく)と呼ばれる植物や動物、鉱物などを2種類以上組み合わされて作られたもので、特に植物の根や樹皮、果実などが生薬として頻繁に用いられます。
一方「漢方」とは漢方薬を用いた治療だけでなく、鍼灸、薬膳、整体などを含めた医学を意味します。
漢方とは

漢方は奈良時代に伝来した古代中国医学を基本とするもので、その後日本で独自に発展・実践されてきた医学です。
そもそも「漢方」は、西洋医学を「蘭方」と名付けたのに対して、日本で名付けられた呼び名です。
漢方の基本は “病気ではなく病人をみる” という考え方にあります。
漢方医学では現代医学のように体の一部分だけにスポットをあてるのではなく、病気の人の身体のみならず心も含めた全体のバランスにアプローチし、総合的に治療していきます(心身のひずみを治していきます)。
例えば西洋医学では「足の痛み」に対して痛み止めを処方されることが多いですが、漢方医学においては「痛みの原因は何か」という観点で「痛み」という病気・症状だけでなく、痛みが出ている原因、身体(心も含む)全体で何が起きているかといったことにアプローチして、治療法を提案してきます。
身体のゆがみが原因で足の痛みが出ているのであればゆがみを治す、といったようにです。
未病とは
また、漢方ではまだ病名がついていないが不調を感じている状態(未病)にアプローチできるのも大きなポイントです。
未病とは発病には至らないものの肩こり、ニキビ、便秘、不眠、冷えなどの軽い症状がある状態をいいます。
具体的には
ただただ何となく身体が重いが病院に行くほどではない
といった状態などのことです。
こうした軽い症状を身体からの何らかのサイン(SOS)と考え、原因となる心身のバランスのゆがみを正そうというのが漢方の考え方です。
漢方医学と西洋医学の違い

ここまで漢方医学及び漢方薬についてみてきましたが、漢方医学(東洋医学)と西洋医学の違いは何でしょうか。
それは病気の捉え方です。
捉え方が異なるため治療のアプローチも異なります。
もう一度「足が痛い」という人について考えてみましょう。
西洋医学では「足の痛み」に対して痛み止めが処方されるでしょう。
これは、「痛み」という病気にフォーカスしているためです。
一方漢方医学においては「痛みの原因は何か」という観点で「痛み」という病気・症状だけでなく、痛みが出ている原因、身体(心も含む)全体で何が起きているかといったことにアプローチして、治療法を提案してきます。
例えば身体のゆがみが原因で足の痛みが出ているのであればゆがみを治す、といったようにです。
ここから西洋医学では「病気」自体を、漢方医学では「病気になっている人」を評価、診断すると言えます。
このように「病気」の捉え方に違いがあります。
どちらが優れているということではないですが、上記のように考え方は両者で異なります。
余談ですが「薬」についても少しお話を。
漢方薬は生薬から成るもの、西洋薬は化学的に合成した成分です。
西洋薬について、初めて化学的に合成された成分は「アセチルサリチル酸」であり、「アスピリン」という名前で広く知られています。すでに100年以上の長い歴史を持つ薬です。
このアセチルサリチル酸の元となった物質はサリチル酸で、19世紀にヤナギの木から分離されました。
世界で初めて人工合成により作られた医薬品であるアスピリン(アセチルサリチル酸)も、元々はヤナギから分離された自然由来の「サリチル酸」がきっかけとなっています。
漢方薬も西洋薬も元を辿れば自然という共通項があるのです。
そう考えると一見して相反している漢方薬と西洋薬は、広い意味では同じ「薬」と言えるのではないでしょうか。
漢方における診断

ここからは漢方における診断について解説していきます。
漢方ではまず、人の状態を体質や病気の性質、部位などで総合的にとらえ「証」を決定します。
「証」=「診断」とお考えください。
そして「証」に基づいて治療をしていきます。
わかりやすく西洋医学で例えると、高血圧患者の場合
証=血圧の数値
治療=降圧薬の処方
です。
漢方医学では望診(ぼうしん)、聞診(ぶんしん)、問診(もんしん)、切診(せっしん)といわれる4つの診断方法で「証」を明らかにしていきます。
望診(ぼうしん) 視覚を用いた診察(顔色、皮膚の色など)
聞診(ぶんしん) 聴覚と嗅覚を用いた診察(声の大きさ、においなど)
問診(もんしん) 質問(現病歴・既往歴、体質を聞き出す、問診票みたいなもの)
切診(せっしん) 触覚を用いた診察。(脈、圧痛の有無など)
また「証」の決定、表現に際しては下記のような項目があります。
気血水 症状の原因に着眼
陰陽 身体全体に着眼
虚実 人の体力に着眼
その他
気血水 症状の原因に着眼
漢方では、「気(き)」「血(けつ)」「水(すい)」の3つが身体をめぐるという考え方があります。
気血水はお互いに影響しあっており、大切なのは3つがバランス良く巡っていることです。

気・・・目に見えない循環要素で生命活動を支えるエネルギー。すべての原動力
血・・・血液と血液の働き。全身を巡り栄養を与える
水・・・血液以外の体液。リンパ液や汗など。水分代謝や免疫システムに関わる
このうち「気」は最も人間の根源的な部分であり、「気」が、全身を十分に巡っていれば一旦は健康と言えるでしょう。
「気」はすべての基本であり、体温維持、免疫機能維持に関わります。また、気は血や水の円滑な巡りを助けます。「気」が失調すると「血」、「水」にも支障が出ます。
例えば「血」の滞りは痛みやしこりの原因になり得ます。
「水」については、人の身体の60~70%は水です。「水」自体は毒ではなく、バランスよく身体に分布しているときは問題ないのですが、バランスが崩れるとむくみ、腹水などを引き起こします。
また、気血水の生成や代謝は「五臓」によって行われるとされています。
「五行」と「五臓」
五行説は古代中国に端を発し、すべてのものは木・火・土・金・水の5つの要素からなるという説です。
5つの要素はお互いの性質を助け合ったり、打ち消し合ったりすることで、あらゆるものがバランスを保っていると考えます。
「互いに影響を与え合い循環する」という考えが根底に存在します。

木(もく)
生長、伸長、柔軟の性質(成長する樹木のよう)
五臓六腑のうち、肝と胆が木に属しています。
火(か)
熱をもち上昇してゆく性質(炎のよう)
五臓六腑のうち、心と小腸が火に属しています。
土(ど)
何かを生む、または受容する性質(作物を育てる大地のよう)
五臓六腑のうち、脾と胃が土に属しています。
金(きん)
重厚感や収斂性のある性質(金属のよう)
五臓六腑のうち、肺と大腸が金に属しています。
水(すい)
下降性の性質(川の水のよう)
五臓六腑のうち、腎と膀胱が水に属しています。
<五臓六腑>
五臓六腑に染み渡るというフレーズでお馴染みの五臓六腑とは
五臓(肝・心・脾・肺・腎)、と六腑(胆・小腸・胃・大腸・膀胱・三焦)をさします。
※三焦は上焦、中焦、下焦からなり、上焦はみぞおちより上方、下焦はへそより下、中焦は上焦と下焦の間の部位とされています。
漢方には、この五行を人の身体の臓器に対して応用した「五臓」という考え方があります。五臓はそれぞれ「肝(木)」「心(火)」「脾(土)」「肺(金)」「腎(水)」です。

それぞれの役割は以下の様に分類されます。
「肝」… 血液を貯蔵する。精神活動、自律神経系の調整などに関わる
「心」… 血液を循環させる。運精神、意識、思考などに関わる
「脾」… 消化吸収、栄養物・水分を運搬する。エネルギーの源
「肺」… 気を循環させる。皮膚、免疫機能、水分代謝、免疫機能に関わる
「腎」… 水分ろ過と再吸収の機能。成長・発育・生殖・老化に関わる
陰陽 身体全体に着眼
陰陽とは身体全体に着眼した考え方です。
大まかに分けると、
活動的で熱性の反応を示すときは陽証
非活動的で寒性の反応を示すときは陰証
です。
陽証の示唆・・・暑がり、顔面紅潮・ほてり、高体温、冷やすと症状が軽減
陰証の示唆・・・寒がり、顔面蒼白、低体温、温めると症状が軽減
陽証の方には強い漢方、陰証の方には、効果が緩徐な漢方といったように証によってお薬を使い分けます。
虚実 人の体力に着眼
虚実とは人の体力に着眼した考え方です。
病気への身体の抵抗力に着眼します。
虚証の示唆・・・体力が足りない状態、体力が弱って抵抗力が落ちている人
実証の示唆・・・体力がある状態、病気への抵抗力が強い人
その他
その他にも病気の性質に着眼する寒熱という考え方、病気の部位に着眼する表裏という考え方などがあります。
「証」の例
ここでは代表的な「証」を紹介していきます。
気虚(ききょ)
「気」が不足している状態です。
「気」がさまざまな原因によって低下することでだるさ、易疲労感、眠気など「気力がない」状態。
血虚(けっきょ)
「血」が不足している状態 です。
身体に栄養を送る「血」が、何かの要因(女性では月経など)で失われることで、血の量や機能が不足している状態。
「血虚」は局所での血の不足によりこむら返り、目のかすみ、動悸、不眠などの原因となります。
こむら返りについては下記記事で解説しました。
水毒(すいどく)
「水」が滞っている状態です。
「水」(体液)の流れが滞ることで体液の偏在が起こり、その分布バランスが悪い状態をいいます。
症状はむくみ、めまい、耳鳴り、腹水、関節の炎症など、水の停滞している部位によりさまざまです。
まとめ

最後まで読んでいただきありがとうございます。
いかがでしたでしょうか。
今回は漢方の「診断」にフォーカスして解説しました。
ポイントは「病気そのものではなく、病気の人をみる」という考え方です。
また、未病を治療できるのが西洋薬にはない漢方の大きな特徴です。
全体的な不調、病名のつかない不調の場合には漢方薬の服用を考えてみるのはいかがでしょうか。